俺がバイトに出ている時に起こった、とても恐ろしい事件。
「電話かけよう。確か、校長を接待するんだよね」
「もしもし。私立学校ですか?
入学の相談で、校長を家に招待したいんですけど」
ええ!
本人に相談無しで、私立学校入学試験を申し込むなんて!
「今の学校、合ってないみたいなので。
喧嘩して怪我して帰ってくるから、よその学校へ移したいんです。
この近郊、公立校と私立校の2つしかないでしょ」
やっぱり、心配してくれてたのかな。
しかし、相手の返答はこれ。
「C以上? ヴァズの成績、C-とかなのかしら。
つーか、学校選択の自由ないのに、成績でふるい分けないで欲しいわね」
「ここで諦めたら、私の生き様がすたるわ」
「……あった。校長の自宅電話番号……。
学校裏サイトをなめるなよ、と」
怖い世の中です。
「来て下さい。
秘書や録音テープじゃ、話にならないんで」
そして呼び出された私立学校の校長。
「困りますよ。我が校は、ある程度優秀な生徒を集めているので」
「成績悪い子の中にこそ、逸材を探し出そうって根性出して下さいな。
ほら、馬鹿と天才は紙一重って言うでしょ。
とにかく、試験をお願いします!」
「仕方ないから、一応お家を拝見させてもらいますよ。
(リビングはソファーと本棚だけか。しかも安物。
本棚には……。漫画と大衆小説のみ、か)」
「キッチン……。
なんでコンロないのに、鍋つかみだけ壁にかかってるんです?
いや、それ以前に、コンロのないキッチンは初めて見ました」
「家、火の気は置かない教育方針なんです」
どういう教育方針ですか、それ。
こういう大事な時に限って、電話があったりする。
「今取り込み中。どちら様?
え? 地味なフェニックスさん?
……忙しいから、また今度ね」
(滞納している請求書が、こんな所に……)
「お家拝見させていただきましたけど、審査しようもないくらいシンプルですね」
「まぁ、それなりに貧乏してるんで。でも、かわいい家具でしょ?」
「生活の要であるコンロがないのは、致命的です」
「こう言っちゃなんですけど、私の経験上はですね。
やはり低所得の家の子どもは、成績もかんばしくないし、情緒的にも不安定な場合が多いんですよ。
住環境というものは、大変大事な要素です。
残念ですが、こんな何もない家のお子さんを、我が校では預かりかねますな」
「低所得……。何もない……」
「多くのお宅では、家を案内された後、
七面鳥やロブスターのディナーに招待して下さるんですが。
子どもの食生活についても、調査する必要がありますからね。
もし食事を用意されてるんなら、一応拝見させていただきますよ?」
「…………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………
ブチっ」
この瞬間、とうとう姉貴がキレました。
もともと短気っぽいしね。
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