「そろそろ閉めるから、エスプレッソマシンの洗浄と、店の掃除しろ」
「はい」
夜8時に閉店。
初めてのバイトだったけど、まだそんなに疲れてないかな。
このカフェ、ダウンタウンの外れにあるから、夜になると人通りが少なくなって、ちょっと怖い。
「今日はお前のおかげで、儲かった。
この調子なら、そのうち時給を上げてやれるかもな」
「頑張ります」
「気をつけて帰れよ」
今日の稼ぎは110$。
これってもしかして、普通のバイトとかよりも儲かってない?
「姉貴、喜ぶだろうなぁ」
俺の稼ぎは微々たる物だけど、家計への影響は結構あると思うよ。
なんせ、今の財産は400$くらいしかないもん。
「ふー。帰った帰った」
バイトよりむしろ、ダウンタウンから徒歩で帰るのに疲れた。
「ただいまー」
あれ、姉貴は出かけてるのか。
ダウンタウンへ出稼ぎに?
入れ違いになったんだろうな。
「あ、新聞」
そうそう、チェックしとかないとね。
「『スージーおばさんの悩み相談室119』……、あったあった」
”
相談者:僕は高校生で、義姉と二人暮しをしています。
でもその姉の性格がフリーダム過ぎて、とても困っています。
僕はどうしたら、姉にもう少し常識的になるよう言って聞かせることが出来るでしょうか。
スージー:人を変えるのは、とても難しいことよ。
まずあなたから変わってみるのは、どうかしら。
いっそのこと、あなたも一緒にフリーダムになっては?
少なくとも今の悩みは、きれいさっぱり消えると思うわ。”
「俺までああなったら、ダメだろ……」
むしろスージーおばさんて、何者かと。
このコラム、よく続いてるな……。
姉貴のことは、もう少し様子を見るか。
まだ知らないことの方が多いもんな。
それより、バイトのために掃除の勉強しとこうっと。
「ただいまー」
「おかえり」
姉貴、何着服持ってんだろ……。
ああいうのって、使ってる布が少ないくせに、すごく高いんだよね。
「夕飯注文するのも中途半端なお腹のすき具合だし、飲み物にしようか」
食生活、乱れてるなぁ。
「で、バイトどう? うまくやれそう?」
「うん。コーヒー売るのって、結構楽しかったよ」
「時給いくら?」
「22$」
「……まあ、そんなもんか」
「姉貴の方は、今日どこで何してきたの?」
さりげなく、探りを入れる。
「なんかねー、この町には私の感性についてこれる奴がいないっつーか。
最先端をうたってるPUREも、たいしたことないわよね」
やっぱり、ダンスホールに行ったんだ。
「牛草がシムを釣る時、餌にするものは? ……んーと、なんだろ」
「この品じゃ、500$以上は出せないわね」
液体夕食の後は、それぞれちょっとした息抜きタイム。
俺はクロスワードパズルで、「論理」の修行。
姉貴は、ネットオークションの出品目録見てるみたい。
今度買う家具の品定めかな。
そして、新聞の天気予報欄を見た俺も、とうとう目覚める。
バイトも決まったし、今日はいままでになく心穏やかな晩だったな。
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