「火の気がないから、サラダくらいしか作れんがな」
「全然すごいですよ! 家じゃこんなサラダ食えないです」
「でも、このカフェのテラス、すごく雰囲気よくないですか?
食事も出すようにしたら、お客さんもっと増えそうですけど。
特に女の人とかに受けそう」
「こんなちっこい店に、厨房なんか作れないだろ。
それにこの店は、エスプレッソ一本勝負だ」
あと、きれいなトイレも特色だね。
むしろエスプレッソよりも力はいってるかも……。
「女の人といえば、お前彼女くらいいるんだろ?」
「どうしてそこからそんな話題になるんですか」
「あー、でも考えてみると俺、女子の知り合いすらいないかも。
緑色した人はちょっとだけ知ってるけど……」
「聞いて悪かった」
「……そんな神妙に謝らないでください」
「おまえ、男子校だっけ?」
「いや、共学ですけど。
なんか普通の女の子を見かけない感じなんですよね。
緑の子くらいしか……」
「そうか。ところで学校の成績は?
成績D以下の学生は、バイトに雇ったらだめだというお達しがあったんだがな」
「むぐっ……っっ#@+○!!!!!?」
「……二度までも野暮な質問してすまんかった。
こっちで適当に処理しておく」
「ところで、今週の金曜日、臨時休業するつもりだ」
「え? 何かあるんですか」
「俺が金土日と旅行に行くから」
「いいなぁ!」
「あ、でも金曜日、バイトないときついかも。
姉貴がようやく定職についてくれたけど、俺のバイト収入も、結構でかいんですよ」
「だから、別のバイト先紹介する。そこに手伝いに行ってくれ。
土曜にもかかるかもしれんが」
「俺暇なんで、土曜も出れますから大丈夫っす」
「手伝いって、どこですか?」
「郊外のフィットネスクラブ。俺のかみさんの兄貴が経営してる。
施設の掃除と、プールの監視員をやってもらいたいそうだ。
高齢者のホットタブ利用も多いから、そこの見回りもあるらしい」
「あれ? 店長って既婚だったんだ。でも一人暮らししてませんでした?」
「そのへん大人の事情があるから、突っ込まないように」
「えと……、はい」
「ま、別にそんなややこしい事情じゃないけどな。
それにいくら夫婦だってんでも、距離をとったほうが長く続くだろ?」
そーいうもんなのかな?
もしかしたら店長の奥さんって、すっごく怖い人なのかも。
「じゃ、金土とそこにいって掃除とか施設の見回りとかすればいいんですね」
「そういうことだ」
「店長の義理のお兄さんって、どんな人なんですか?」
「そうだな……」
「非常に濃厚だが、無害だから安心しろ」
「……はい」
俺の人生で一度も聞いたことがない、人格評価だった。
この日の夕方。
「マスコット時代同様、また私も日の下に出てこれたってわけね」
姉貴にとって、選手下積み時代はトンネルだったらしい。
夜。
ようやくバイトから帰宅。
雪が降ってきてるね。明日積もるかなぁ。
「ただいま……っと。
ソファーで昼寝はしてないのか」
「ふぅ~。
今日のバイトは大変だったな。明日あたり何か楽しいことがないと、俺、ぐれるかも」
帰宅後のミルク。
本当は家のトイレ掃除の続きもあるんだけど、今日は無理っぽい。
エアロバイクでちょっと気晴らしして寝よう。
「あ、姉貴。下にいたんだ」
「ん。今話しかけないで。集中が切れるから」
それ、ヨガのポーズかな。
なんにしても、意外とまじめなんだな。
運動したりヨガしたり。この調子だと、次の昇進も早そう。
「ふんぬ」
「そうそう、ところで俺、今週の金曜日と土曜日、例のフィットネスクラブでバイトすることになったんだ。
いいとこそうだったら、姉貴に紹介しようか。……聞いてる?」
「いま……とり、こみ、ちゅーっ……!!」
スポーツ選手も大変だな。
何のスポーツかはいまだに謎だけど。
そういうことで、今日も終了。
明日は絶対遊ぶ時間、確保するぞ!
前へ / 次へ