冬。
今年初めての雪が降ってきた。
「…………」
当然、屋根のないこの家の中にも、初雪。
家があるのに、すっごくホームレス気分。
「とりあえず、アウターを着たけど……。
このままここにいると、凍えそうだな。
そろそろ、宿題始めるか……。エーナさん、宿題教えてくれないかな……」
「エーナさん、入っていい?」
「どうぞ」
内職してる……。
「ええっと、宿題教えてほしいんですけど。今、忙しい?」
「いいわよ。ちょうど区切りがついたところだから」
「宿題なんて、慣れればあっという間よ。大卒の私に、任せなさい。で、何が分からないの?」
「この物理学の、『速度と距離』の問題。グラフから、旅客機の秒速を求めなきゃいけないんだけど……」
「計算がこんがらがっちゃって、全然分かんないんだ。8.322×1011 m/s って、絶対変だよね?」
「……航空会社のホームページで、旅客機の速度調べて、それ書いときなさいよ」
だめだこりゃ。
そんなこんなで、何とか宿題も終わって、夕ご飯。
今晩は、中華の出前。
俺の宿題を見てくれて、夕飯の支度が間に合わなくなったみたい。
「夜になって、雪がやんでよかったわねー。せっかくのチャーハンに、雪が入ったら嫌だもんねぇ」
「屋根、付けましょうよ……」
「その前に、このPCを置く専用の机を買わなくちゃ。食事の邪魔だわ」
「エーナさん、俺も、何かバイトするよ」
「……『エーナさん』ねぇ。
せっかく家族になったんだから、別の呼び方しようよ、ヴァズ君」
「別の? まさか、『お母さん』とか?」
「冗談じゃないわよ! 私、ティーンの母親って年齢じゃないもの。
呼ぶなら『お姉さん』よ、『お姉さん』!
で、あんたは私の弟ってワケ。そっちの方が、しっくりくるでしょ?」
「お姉さん……」
「それと、他人行儀な話し方もやめてね」
「はい……じゃなくて。分かったよ、姉貴」
「そうそう。そんな感じ」
「ところで、俺のベッドと机を買ったお金、どうやって稼いだの?
姉貴、なんか仕事してるの?」
「ダウンタウンのロンドステって知ってる? 超高級レストランよ。
私そこで、専属のヴァイオリニストをやってるの」
ヴァイオリン?
でも、この家、楽器なんか置いてないけど。
どうやって、練習とかしてるんだろう……。
(俺、今日から、この家で暮らすのか……)
自分ん家を持つって、なんだかいいな。思っていたよりも。
姉貴も一人で大変そうだから、家の掃除とかは俺がやらなくちゃ。
よし、明日からがんばるぞ~!
「もぐもぐ……(今日はじめての食事。一箱だけじゃお腹一杯にならない)」
(さむー。やっぱり先に屋根を付けるべきね。
あら私ったら、あまりの寒さに顔が真っ青だわ……。
早くお布団に入らなきゃ)
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