「こんな夜遅くまで発掘作業とは、なかなか感心な青少年君だな」
「えーと、どちら様?」
「オペラの帰り道に、素晴らしい原石を目にしたただの紳士だよ」
「俺には、この間新聞に載ってたペテン師とそっくりに見えるんですけど?」
「ははは。シルクハットと片眼鏡のマジックだね。
個性の強い装身具だから、身につけるだけで皆同じに見えてしまう」
「で、なんの用ですか」
「素晴らしい原石だといったではないか!」
「原石? 何の?」
「おや、原石じゃなかったかな。
失礼。君の両脇から立ち昇る緑の翼に気がつかなかったようだ。
君は大空に羽ばたく大鷹の子なのかもしれない」
「……これ、俺の体臭だと思いますけど。
発掘で汗だくだしドロだらけだし」
「若さとは素晴らしいものだ!
未来には希望が!
若者の胃には大いなる野望がある!!」
「胃?
そ、そんなところに野望ってあるんすか!?」
「見たまへ! この大空を!
いずれ全てが君たち若者のものとなる、この宇宙を!!」
「さっきまで雪降ってたから、曇って空見えないですけど……」
「人生の先達者の忠告だ。
決して目に見えるものだけを見てはいかん!
たとえ雲に閉ざされようと、君は心の目で澄んだ空を見据える事が出来るはずだ」
「え~と、え~と」
「やっぱ、ペテン師でしょ」
「――使い古された言葉は、たとえ真実を含んでいても人の心には届かないものだ。
私は私の貧しい語彙を恥ずべきかもしれないな」
「いや、そうじゃなくて」
「私はこれで失礼しよう!
年上のお節介を許してくれたまへ!」
チャリーーーーン♪
今、キャッシュが変動した音がしたんですけど……。
「それではグッナイ!」
「おじさん、右手に俺の150$とか持ってません?」
「ん? 私の右手がどうしたかな?」
「あれ? 消えた……」
「そうだ。目に見えるものだけを信じていると、いつか足元をすくわれる。
君は賢い少年だから、きっと私の言うこともいつか分かってくれるだろう。
頭なでなで~」
「…………」
「それでは!」
「…………」
現在キャッシュ確認中。
ってぇ~~~~~~~!!
やっぱ確実に財布の中身減ってるじゃないかーーーーーーーーー!!!
「おじさん、ちょい待ち。
俺、そんなにすれてない若者じゃないんです」
「ん?」
「俺の150$返せーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!」
「のおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!?」
夜も遅くに始まる大乱闘の幕開けです。
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