俺の時給は22$。
とんでもなく薄給。
さ、仕事仕事。
まずは流しの掃除。
この辺、家でよくやってるから、なんでもないな。
「あ、こんなところにステインが」
蛇口もきちんと磨いとかないと、白いざらざらした汚れがいつの間にかついちゃうんだよね。
なんか、主夫してる気分になるなぁ。
さてと、お客さんを追い出してトイレ掃除。
トイレの中で談笑するお客さん、多いなぁ……。
店内よりトイレの方が居心地いいのかな。
変なの。
あの、店長……。
お客さんにキックバックに誘われちゃったんですけど、ここは従った方がいいんですか?
その頃の店内。
コーヒーを買うお客さんは0。
キックバックを見たいお客さんは……全部!
「お客さん、コーヒー買ってくれませんね」
「まあ、毎日がこんなもんだ」
「えっ?! よくそれで店が持ってますね」
「やっぱり、壁のメニュー通りにチャイとかラテとか売った方が……」
「あれは飾りだと、何度言えば分かる。
メニューなど絵画だ。エスプレッソ一本で勝負するんだ!」
「はい……」
「しばらくそこにいろ。俺はコーヒー飲んで休んでるから」
「はい……」
(コーヒーの味だけじゃ、勝負にならんのかなぁ。
俺の店には、何かがかけてるのかもなぁ……)
お客さんはずっと外でキックバック大会してるし、俺は掃除全部しちゃったし。
やることなくてつまんないよ!
「店長~、なんか仕事ください」
「しゃあない。目先を変えて、お前にバリスタやらせてやる」
「うわ、おもしろそう!」
「真面目にやれよ。どうせ、客とか来ないと思うけど」
「ちょっと耳を貸せ、お客ども!
新しい店員が入ったから、ちょっくら可愛がってやって下さい」
店長みずから、表でキックバックをやっていたお客達を解散。
すると……。
「エスプレッソひとつ」
おお! 初めてのお客が!!
「僕もひとつ」
「僕にも……」
今までとはうって変わって、どんどん注文が来た!
どうなってるの、これ。
あっという間に人だかり。
もしかして、俺ってバリスタの才能ある!?
嬉しいな。
(やっぱり、若いもんをカウンターに立たせた方がいいのか……)
「あ、店長。よく売れてますよ! エスプレッソ!!」
「エスプレッソひとつ、お待ちどうさま」
「ありがと。僕、かわいいわね~」
お店の中は大盛況。
俺ってもしかして、売り上げにものすごく貢献してない?
「エスプレッソひとつ……」
「店長?」
「特別濃いーのを頼む」
店長、やさぐれたみたい。
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