「施設の人、なんて言ってました?」
「……よく分からないから、明日また電話し直すわ。まー、細かいことは気にせず、中に入んなさい」
「今夜は泊まっていって。ソファーに眠ってもらうことになるけどね」
「……あ、それでいいです……」
この人、なんかすごい背が高いなぁ。
しかし、家の中も外と同じくらい寒いんですけど。
暖房ないのかな。
「ホントに、手違いっていやぁよねぇ……」
「……」
ここ、居間なのかな……。
普通、あそこの窓際に、テレビとかステレオとかラジオとかがあるものだけど。
「……」
台所……だよなぁ。
普通、コンロがあるものだと思うんだけど。
「あの、この家、どうしてテレビとかガスコンロとかがないんですか?」
「あのね……。ゲストの癖に、人の家にいちゃもんつけんじゃないわよ……」
「だって、テレビやラジオはともかく、ガスコンロは生活の基本でしょ?」
「あんた、火事で死にたいの? 一人暮らしの火事は、半端ないわよ」
「火災報知機をつければいいんじゃ?」
「ぶっちゃけ言うと、お金がないのよ、お金が。大体、この家にないのはそれだけじゃないわよ。上見てごらん」
「空が……。っていうか、ちょっとトイレ借りていいですか」
「どうぞ」
(さーて、どうすっかなぁ。ここで追い返したら、さすがにあの子、傷つくかなぁ。でも、あんな大きな子を息子にしても、しょうがないのよねぇ)
(家族がいない身の上ってのは、分からないことはないけど……。
お人好しな感じで、悪い子じゃなさそうだしなぁ。
何で今まで、引き取り手がいなかったのかしら)
(さっきの、空。目の錯覚とかじゃないよな……。
それより俺、これからどうなるんだろ。いまさら、施設に戻れやしねぇよ。
その辺の公園にでも住み着こうかな……)
大体、あんな高そうな鉢植えを買う余裕があったら、屋根を買わないか?
エーナさんと、ちゃんと話し合いたかったんだけど。
俺がトイレから出たら、引越しの挨拶で近所の人が来てた。
とりあえず、ピザでも頼んでもてなすことに。
話し合えるのは、お客さんが帰ってからかなぁ……。
ああ、俺もエーナさんにとっては、ただのお客か。
はぁ……。
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